第28回 自分のことは自分で

アゲおっさん
ミドリはん!話があるんや。
ミドリさん
なに?
アゲおっさん
ワシ、ディズニーランドいってみたい。
ミドリさん
・・・。いってらっしゃい。止めないわよ。
アゲおっさん
ちゃうやん!ちゃうやん!みんなで行ってのディズニーやん!?おっさん一人はアカンて!
ミドリさん
えー気持ちは分かるけど・・・。
アゲおっさん
なんやの?
ミドリさん
我が家にディズニー行ける金銭的余裕はありません。あしからず。
アゲおっさん
そんなん大丈夫や。
ミドリさん
アゲおっさん
ワシが増やしたるがな。
ミドリさん
どうせギャンブルでしょ?
アゲおっさん
せや。
ミドリさん
もうちょっとマシな提案はないの?働いて稼いだるでー。とか。
アゲおっさん
あらへんな。
ミドリさん
何を誇らしげに・・・。
アゲおっさん
ワシらアゲ者はな。やりたいことしかせぇへんのや。
ミドリさん
た、確かに・・・。アゲアゲくんもそうだな。
ミドリさん
でもねぇ。人はそれでは生きていけないのよ。甘くないの
アゲおっさん
そんなことないんやけどなぁ。伝わらんかな。
ミドリさん
??
ケイイチ
ただいまー。
ミドリさん
あ、お帰りなさい。
ミドリさん
ケーイチ!部活どう?
ケイイチ
うん、調子良いよ。
ミドリさん
勉強は?
ケイイチ
まぁまぁだね。
ミドリさん
そう。良かった。
ケイイチ
出かけてくるよ。
ミドリさん
どこに?
ケイイチ
友達んとこ。
ミドリさん
だれ?
ケイイチ
え!?テツシとだよ。
ミドリさん
そう。
アゲおっさん
・・・。

 

~翌日・ケイイチの部屋にて~

ミドリさん
あなたの夢をー♪あきらめないでー♪熱くいきーる、瞳が好きーだわー♪
ミドリさん
あら、ケイイチの模擬試験の結果じゃない?
ミドリさん
あらー。この点数はマズイなー。目標のS高落ちちゃうよ。
アゲおっさん
・・・。

~その日の晩~

ケイイチ
母さんさ、今度友達とキャンプ行きたいんだけどさ。お金くれない?
ミドリさん
えぇ。うん。まぁいいけど。
ミドリさん
勉強は大丈夫なの?
ケイイチ
え?大丈夫だよ。
ミドリさん
そう?
アゲおっさん
・・・。

~日曜日~

ミドリさん
あら、今日もでかけるの?
ケイイチ
うん。友達と遊んでくる。
ミドリさん
・・・。
ミドリさん
ねぇ?ケイイチ?
ケイイチ
なに?
ミドリさん
遊ぶのもいいけど・・。受験はホントに大丈夫なの?
ケイイチ
え?
ミドリさん
バスケのためにS高校へチャレンジしたいんでしょ?
ミドリさん
今は何をすべきか、考えてる?
ケイイチ
考えてるよ。
ミドリさん
じゃあなんで遊びにいくの?
ケイイチ
・・・。
ケイイチ
分かった。じゃあ家にいるよ。
ミドリさん
え?今日は遊びに行った方がいいんじゃない?約束あるんでしょ?
ケイイチ
いいよ。断る。
ミドリさん
え、えっと、そのー。
ケイイチ
今から勉強するから。文句ないでしょ。
ミドリさん
・・・部屋入っちゃった。
ミドリさん
こ、この空気は・・。以前の我が家だ
ミドリさん
やってしまったかな・・・。
ミドリさん
アゲアゲくーん!
ミドリさん
あれ、いないの?どこ?
アゲおっさん
アゲアゲくんなら出かけてるで。
ミドリさん
あ!アゲおっさん。
ミドリさん
どこ行ったの?
アゲおっさん
アゲ親学のレクチャーやがな。アゲアゲくんの生き甲斐やからな。
ミドリさん
うー。相談したいときにー。
アゲおっさん
ワシ話聞いたろか。
ミドリさん
・・・どうしよう。
ミドリさん
あとで何か請求してこない?「ディズニー連れてけ」とか。
アゲおっさん
・・。するどいな、ミドリはん。
アゲおっさん
お好み焼きとビールでどや?
ミドリさん
うん。じゃあそれで。交渉成立ね。

~10分後~

ミドリさん
っていうわけなのよ。
アゲおっさん
なるほどなぁ。
ミドリさん
さっき、久々に昔の私とケーイチの空気感じた。
アゲおっさん
昔の空気?
ミドリさん
うん。今はマシだどけね。アゲアゲくん来る前の私は、怒ってばっかりだったの。
ミドリさん
「勉強しなさい」「迷惑かけるな」「こんなことも出来ないの!?」「エライね、賢いね」「いい加減にしなさい」などなど手出し口だしオンパレード母でしたー!
ミドリさん
ケーイチには特に厳しくしちゃってさ!
ミドリさん
ボス猿と小猿みたいになってたの。「私、この子に嫌われてる」って感じたもんー!
アゲおっさん
そうかぁ。もっと話してや。
ミドリさん
でもでもでもでもね!
ミドリさん
大分マシになったの!これでも。
ミドリさん
今は「ケーイチの夢応援したい」って思えるようになってきた!※第25回参照
ミドリさん
でも遊び制限するのは間違ってたかなー!!あの空気はもうイヤー!
ミドリさん
でもでも、大事な時期に遊びに行くって。しかも今度キャンプだよ。宿泊だよ?
ミドリさん
受験生がキャンプってそれは違うようなー。
ミドリさん
あ!もしかして!
アゲおっさん
ミドリさん
彼女が出来たとか?うーん。それなら遊びに行くのも仕方ないかー。私には内緒よね。
ミドリさん
だとしたら誰だろう?バスケ部のエミちゃんかな。いや、この前ノート交換したというハルコちゃん??うーむ。
ミドリさん
友達の誘いを断れないとか??トモくん?それとも最近よくLINEしてるマサミツくんと・・・
アゲおっさん
アンタ、友達の性格や深さまで把握してんのかいな?ケーイチくん中3やで。
ミドリさん
うん。
アゲおっさん
・・・。
アゲおっさん
過干渉やな。
ミドリさん
ガーン!
ミドリさん
ず、ずいぶんス、ストレートに言うのね。
アゲおっさん
アゲアゲくんはもっと優しいか?
アゲおっさん
原因はなんやろうなぁ。
ミドリさん
わ、私ね!ケーイチには自分の夢を叶えてほしいの。
ミドリさん
私、母からずっと我慢させられてきたから。ケーイチに同じことを繰り返したくないんだ!
アゲおっさん
せやから「もっと勉強せぇ」言うたんか?
ミドリさん
はい。間違ってるかな・・。
アゲおっさん
・・・。
アゲおっさん
博打でな。破産するのはどんなヤツやと思う?
ミドリさん
え!?博打?
アゲおっさん
せや。博打や。
ミドリさん
予想が下手とか?
アゲおっさん
ちゃうで。失敗を取り返そうとするヤツやで。
ミドリさん
失敗を取り返す?
アゲおっさん
競馬で1000円負けたとするやろ。「くっそー」思うやん。負けた自分が惨めやん。
アゲおっさん
そこでな。「負けた1000円取りかえすんや!」って次のレースに大金ツッコむヤツは失敗するんよ。気負いすぎや。
アゲおっさん
子育ても同じやで。
アゲおっさん
ミドリはんは、子ども時代・・まぁ負けてもうたんや。
ミドリさん
うん。
アゲおっさん
責めてるんちゃうで?
アゲおっさん
子どもは無力やねん。親がその気になったら子どもは負けるしかないねん。
ミドリさん
うん。
アゲおっさん
自分の負けた人生・・まぁ勝ち負けはホンマはないんやけど、本人は「負けた」と感じてるねんな。
アゲおっさん
逆転させたいけど、自分ではようせぇへん。我が子に託してまうねんな
アゲおっさん
ある親子の話や。

※以下もアゲおっさんのセリフです

ある父親はマジメ一本槍の公務員。

結婚して息子が生まれたら、とにかく勉強させた。

小学生までは父親がつきっきりで勉強させた。

中学生なったら、今度は家庭教師雇ってのつきっきりや。

この父親はなぜこんなことさせたのか。

父親自身な。ホンマは公務員やりたなかってん。

小さい頃から鉄道員なりたい思うててん。

でも生まれた家は商売人の家やった。

「商売人は勉強せんでもエェ」言われたんよ。昭和はそういう時代やったんや。

親はロクに勉強させてくれへん。鉄道員なんてもってのほか。

「鉄道員になりたい」と希望言うこともでけへんかった。

でも商売はしたくない。絶対継ぎたくない。

結局、家を継がず、鉄道員にもならず公務員になった。公務員やったら親も納得したんやな。

でも悔しいねん。「負けた」思てんねん。取り返したいねん。

だから「オマエのためや」と大義掲げて次のレース、つまり息子に勉強めっちゃさせてん。

もちろん、その子は反発するわな。

まぁ見事な不良になって、警察沙汰にもなったわ。

勉強させられた息子はずっと思ってたそうやで。

「オレは親の期待に応えられない」って。

でも言われへんねんな。親の方が強いから。

「やれば出来る」って親に言われたら、子どもはもう反抗でけへん。

ミドリさん
うん。私も似た経験ある。
アゲおっさん
この話、どこに問題あると思う?
ミドリさん
親の夢を子どもに押しつけたこと?
アゲおっさん
せや。もっと言えば自分の「負け」を我が子で取り返そうとしたこと。
アゲおっさん
もっと言えば、自分がフィーバーする努力をやめたことなんや。
ミドリさん
どういうこと?
アゲおっさん
簡単や。公務員辞めて、鉄道員目指したら良かってん。
アゲおっさん
子どもを輝かす前に、親が輝かなアカンねん。
アゲおっさん
自分の人生に納得してへんのやったらな。
アゲおっさん
いつの時代にもおるもんなんや。
アゲおっさん
フィーバーしてへん自分の人生。逆転させるために子どもに夢託してしまう親や。
アゲおっさん
子どもからすればプレッシャー。ありがた迷惑なんやなぁ。
アゲおっさん
「自分の人生は自分で決めなさい」これが言えたら、どれだけ親子は救われるか。難しいんやなぁ。
ミドリさん
わ、私は言えてるかな??どうなんだろ??
アゲおっさん
ミドリはんはそこまでヒドないで。心配せんでエエ
アゲおっさん
アンタはアンタで色々あったんやろ?
アゲおっさん
それでも自分の受けた負の経験。我が子にすまいと気張ってるんやろ。
ミドリさん
・・うん。
アゲおっさん
・・・。
アゲおっさん
アンタほんまフィーバーしぃや。それがみんなのためや。
アゲおっさん
・・ちゃうな。
ミドリさん
・・?
アゲおっさん
まずはもっと自分を誇ることやな。アンタ、エェおかんやで。
ミドリさん
うん・・・。
ミドリさん
私はどうしたらいいのかな。
アゲおっさん
アンタのお母はん。
ミドリさん
え?
アゲおっさん
アンタのお母はんはどんな人や?
ミドリさん
・・口だし手出しが多い人だった。
アゲおっさん
他には?
ミドリさん
進路や友達付き合いまでに口だしされた。
アゲおっさん
そうか・・。
アゲおっさん
ワシ、お母はんに会うたことないけど。
アゲおっさん
お母はんは、自分自身フィーバー出来へんかったのかもな。
アゲおっさん
自分の負けた分を、ミドリはんで取り返そうとしたんかなぁ。
ミドリさん
分からないけど・・母がね。
ミドリさん
「私も小さい頃こうされた!」って怒りながら、しつけてくることあった。
アゲおっさん
・・・。
ミドリさん
とても怖くて・・・。「私はこの人に従うしかない」と思った。
アゲおっさん
難しいこと聞くかもしれんけど・・。
アゲおっさん
もうお母はんの言う通りに生きる気ないんやろ?
ミドリさん
うん。そうありたい・・
アゲおっさん
良かった。それ聞いて安心やわ。
アゲおっさん
時間かかるかもしれん。それでもアンタは今、正しい道歩いているで。
ミドリさん
ホント?
アゲおっさん
ホンマや。ワシを誰や思うてんねん。伝説のアゲおっさんやで。
ミドリさん
ケーイチに謝った方がいいかな?
アゲおっさん
何もせんでエェと思うけど・・・。
ミドリさん
ケジメつけないと、また干渉しちゃいそうで・・・
アゲおっさん
・・・。
アゲおっさん
いや、もう大丈夫やろ。
アゲおっさん
今、自分を見つめ直したやろ?
ミドリさん
うん。
アゲおっさん
お母はんと似たようなことしてる自分に気づいたやろ?
ミドリさん
うん。
アゲおっさん
自分の人生。これから生きるつもりあるんやろ?
ミドリさん
・・うん。そのつもり。
アゲおっさん
ケーイチ君がどうしてほしいか。もうアンタは分かってるはずや。
ミドリさん
信じて見守っててほしいんだよね。
アゲおっさん
せや。
ミドリさん
親って不安との戦いなんだよねぇ。
アゲおっさん
アゲおっさん
それが分かってるアンタはエェおかんやでぇ。合格や。
ミドリさん

~夕食~

ミドリさん
ケーイチは信じて見守っていてほしいと思っている。見守っていてほしいと思っている・・・。
ケイイチ
母さん、じ、実はさ。
ミドリさん
はい!なに?
ケイイチ
彼女出来るかもしれないんだよね・・・。
ミドリさん
わぉ!
ケイイチ
いや、まだ付き合えるとかじゃないんだけど!遊びに行けたくらいで!
ケイイチ
ゴメン!受験への気が緩んでた!
ミドリさん
分かってたんだ
ミドリさん
キャンプはその子が来るの?
ケイイチ
うん・・。チャンスなんだよ・・。
ミドリさん
あぁ、なるほど。それも青春だ。
ミドリさん
いいよ!ケーイチのペースで受験やればいいって!キャンプへも行きなさい!
ケイイチ
ほ、ホント?
ケイイチ
いや、でもオレ本当にS高行きたいんだ。学費かかることも分かってる。で、でもさ。
ミドリさん
その子も気になるわけね?
ケイイチ
・・・そういうこと。
ミドリさん
ケーイチ!
ケイイチ
・・?
ミドリさん
あなたの人生はあなたが決めなさい!母さん信じてる
ケイイチ
うん!ありがと!
ミドリさん
・・よかった。言えた
ミドリさん
 結局、私の取り越し苦労だったのかな。
アゲおっさん
せやな。子どもは信じてナンボやで。
ミドリさん
・・・反省シマス。
アゲおっさん
ただ・・・。
アゲおっさん
あぁやって自ら母親に言えるんや。これって信頼ちゃう?
ミドリさん
!!!
ミドリさん
う、うん。ありがとう
アゲおっさん
・・なんや泣いてるんか。ステキやん。
ミドリさん
私ね。友達みたいな親子でいたかったの。
ミドリさん
 ケーイチが「彼女出来そう」って言ってくれるなんて・・・。夢みたい。
アゲおっさん
・・ぎょうさん悩んだんやなぁ。
アゲおっさん
足掻き続けてたら道はちゃーんとあったやろ?
ミドリさん
うん。
アゲおっさん
みっともなくてもな。泣いてもな。足掻いたらええんやで。つかめるもんはどっかにあるねん。
ミドリさん
うん・・・。
ミドリさん
よし!明日はお好み焼き行こう!約束の!
アゲおっさん
せやせや!それや!忘れてたでー!

~翌日・洋風お好み焼き「ドルノ」~

アゲおっさん
ミドリはん!このステーキ焼きがえぇ!ワシ、これ食いたい!ステーキ焼きデラックス!
ミドリさん
えぇ!?ステーキなんてあるの?お好み焼きに?
ミドリさん
ホントだ。さすが洋風お好み焼きね。
ミドリさん
いくらかな?
ミドリさん
2980円お好み焼きでー!?
ミドリさん
・・・い、いいよ。ミドリに二言はないわ。
アゲおっさん
おおきに!
アゲおっさん
兄ちゃん! ワシ、ステーキ焼きデラックス!
店員
お客様は?
ミドリさん
ぶ、豚玉で・・・。780円。
アゲおっさん
あとビールや!ジョッキ3つ持ってきて!
ミドリさん
コラ!一本ずつにしなさい!
店員
お待たせしました!ステーキ焼きデラックスと豚玉になります!
アゲおっさん
きたでー!肉がステーキ肉になってんねんな!
アゲおっさん
・・・はむ。
アゲおっさん
ウマー!!マンモスうれピー♪
店員
ありがとうございます!高級和牛肉使ってるんですよ。
アゲおっさん
わぎゅー!!

ミドリさん
輸入肉でいいってー!
アゲおっさん
和牛なんて♪和牛なんてー!!最後食べたんいつやろー!東京来て良かったでー
ミドリさん
・・いいなぁ。私も和牛食べたのいつだろう。
ミドリさん
ねぇ、ちょっとちょうだい?
アゲおっさん
イヤや。ワシの和牛やもん。
ミドリさん
げぇ。大人げない。誰のお金よ?
店員
5880円になります。
ミドリさん
おっさん、飲み過ぎだって・・。
ミドリさん
・・・。
ミドリさん
やっぱり教わるならアゲアゲくんがいいー!無料だし!
アゲおっさん
満足やでぇ。ゲップ。

 

自分の人生は自分で決める

「子どもは信じてナンボ」

「あなたの人生はあなた決めなさい」

この二つの言葉に今回は集約されています。

 

大まかにですが、子育てとは自分のコピーを作ることです。

自分が自分の人生を歩めば、子どもにもそうさせます。

 

自分が諦めてたら、子どもにも諦めさせます。

 

ミドリさんの母親は「諦めた」人でした。

ミドリさんが幼いころ、厳しいしつけにあったように、母親自身もまた同じしつけを受けて育ちました。

 

「あなたの人生はあなたが決めなさい」

こんな言葉は今や風前の灯火のようになっています。

 

win-winの関係あれば、lose-loseの関係もあります。

お子さんに向かって、心の中で構いません。

 

「あなたの人生はあなたが決めなさい」と思ってみてください。

同時にそれは、自分自身への誓いにもなります。

 

「あなたの人生はあなたが決めなさい!」

ケーイチ君にそう言えたことで、ミドリさんの心の錠前は一つ解かれました。

相手を信じた先にwin-winの関係はあるのです。